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昨年あるコンテストに応募したショートストーリーです。400字詰原稿用紙2枚以内でのエントリーでした。
選外でしたので、こちらにUPしてみます。禁則処理されないので、アホみたいな改行になっている部分もあります。ご容赦ください。


ピリオド

 ホールに入りきれないほどの旧友が、あの頃と同じように語り合い、笑っている。こんなに大勢の仲間が集まるのは、卒業式以来だ。
 ふと入口に目をやった瞬間、心が揺らいだ。彼女だ。歳月を経ても、ひと目でわかる。後ろから風が吹いたような、あの時と同じ感覚が蘇る。
 大学生活最後の夏、故郷での飲み会で彼女と再会した。寂れた商店街の向こうから歩いてくる姿を見たとき、僕の中で何かが動いた。数年の時を遡り、十七歳の自分がそこにいた。あの時、仲が良すぎて言えなかった思いは、ずっと胸の中に隠したまま。
 彼女しか見えなかった。パソコンも携帯もない時代、交換できるのは住所ぐらいだ。半年間の手紙のやりとりを経て、始まった交際。僕は内定を辞退し、帰郷した。ずっとそばに居たかったけど、幸せは長く続かなかった。僕達は親友のラインを越えてはいけなかったのだろう。彼女の心を苦しめて、自分も傷ついて、春が終わる前に別れた。
 あれから十数年。僕には本気で好きになれる人が現れなかった。彼女は幸せを見つけ、温かい家庭を築いたそうだ。「よかったね」格好をつけるわけじゃなく、純粋にそう思えた。心を傷つけるほどに苦しんだあの日々のことは、いまでも覚えているけど。その傷を乗り越えて、笑顔でいられるならそれでいい。
会場の喧騒から少しだけ離れて、僕は彼女に問いかけた。「生まれ変わって再び出会ったら、そのときは一緒になってよ」。小さく頷いてくれた。長かった恋心に、やっと終止符が打てた気がした。
 今でも時々、彼女宛てにメールを綴る。送ることなく消してしまうけど、その瞬間だけはあの頃のことを思い出す。駅裏の狭い路地、平屋の木造アパート、こたつの匂いと彼女のエプロン姿。何を食べたのかは思い出せないけど。